「白雪姫④」「子どもたちが描く色とディズニーの色」続編
いつもは優しく守ってくれるはずの母親が、、、ふとした時に鬼のような形相で子どもを叱りつける。時には手を上げる。そうかと思えばまた、胸に抱きしめてもくれる。どんなに怖い母親であっても結局子どもの日常は、その母親の愛情に頼らざるをえない。これは子どもの側から見れば、聖母と魔女とにクルクル変身する母親との闘いにほかならない。だからこそ、子どもたちの深層心理はディズニーアニメに共感を寄せることができる。
ただし、アニメと現実には決定的な違いがある。子どもたちの現実には、白馬の王子様は決して現れる事がなく、子どもたちは一人孤独に闘い、ほとんどは敗北するということである。
鬼の絵を描いた男の子も、母親の期待に押しつぶされ、そのやり場のない怒りを他の子どもたちにぶつけていたのだと思う。まさに、彼の心の中には荒れ狂う魔女が存在していたのだ。せめて恐ろしげな鬼の絵を描くことで、怒りを発散していたのだろう。
ユング派の治療家クリスティアーネルッツは、その著者「子どもと悪ー絵を描く集団治療」の中で次のように語っている。「悪魔の絵など恐怖のイメージを描く時、それは自己治癒の始まりである」。
しかし、それにしても母親はなぜ魔女化するのか。このことを考える度に思い出すことがある。
(例)50代の女性が訪ねてきた。その服装は〜とにかく全身「黒」ずくめ。長い髪、それに履いている靴が紫と黒のツートンカラー。何となく重い雰囲気の女性を見た時に、その服の配色から「白雪姫」出てくる魔女を連想してしまったほどだ。
話を聞くと、娘が家出をしたまま行方知れずだという。「きっと私と育て方が間違っていたんでしょう」とその女性は罪悪感に苦しんでいる様子だった。しかし、、、育て方とはいっても、結局はどんな形であれ、子どもはおやの心の波長を感受して育っていく。もしも、子どもが家に居ることが辛くて出ていったのだとしたら、よほどその家の空気がトゲトゲしかったからに違いない。
「そうなんです。私は結婚して以来、夫のことを愛していると感じた事がありませんでした。もともと不本意な結婚で一緒にいてもイライラするだけなんです。ずっと我慢してきました。そのせいかストレスからアトピーがひどくなって、つい子どもにも辛くあたったかも。そんな事が子どもにも影響したんでしょう」。、、、なんと辛そうな生活だろうと思い、何を話していいか分からないほどでした。
絵を描くのは嫌いじゃないという。これまでの研究からも分かるのですが、色彩を自由に使う描画は心理的なセラピー効果が高い。特に色彩の刺激は心理的な治癒力を喚起する。とにかく絵を描くことをすすめ、その後も絵を見せに来てくれた。そして、薄紙をはがすように彼女の心が軽くなっていくのを感じる事が出来た。
いつしか洋服の色からも黒が少なくなり、最初の頃の魔女のイメージはすっかり消えていった。これほど極端でないにしても、閉ざされた生活をしている限り母親であれ、当たり散らしたくなるのが人間の心理というものだろう。爪を伸ばして襲いかかる魔女は、どこか人生に苛立っている(母親)の象徴なのではないか。
、、、次回に続く。