ミステリーと色彩②緑のお話🌵🌵
緑色が人間の欲望の対象になる例もある。スーザン・ブランのサスペンス「緑の死」は、原題は「緑の石」で、宝石エメラルドを💚指している。
メキシコ旅行中のアメリカ人夫婦が、ハイウエイを走行中、1人のインディアンに射殺されて現金を奪われたのが物語の発端である。犯人はペソ紙幣だけをとり、他の物には全く手をつけなかったのだが、同行した少年マヌエルが、死んだ夫人の指からエメラルドを飾った銀の指輪を抜き取って隠す。
この美しい緑色の石をめくって展開される幾つもの事件が、このサスペンスの骨子である。一つの緑の宝石が貧しい人間に豊かな生活の幻を見せられる。その欲望のために、その男はアメリカ女性旅行者のハンドバッグに紛れ込んだエメラルドをつけ狙う。
その結果、インディアン部落の誰が狙撃したのかわからなかった厄介な事件が思わぬ事から解決するのだ。この物語で、エメラルドと共に人間の欲望を刺激する緑色はドル紙幣の印刷の色でもある。
こんなミステリーを読むと、緑色は決して心休まる平穏な色とは思えなくなるだろう。色鮮やかな鉱物が、なぜ宝石として珍重され、人間の欲望の対象になるのかという事も、色彩学では解く事の出来ない人間の不思議さである。美しい緑色は、ある時は人間の安全を保障し、生命の糧となり、ある時は毒となって生命を奪う。色彩は実に何の保証にもならないのである。